前回は「お茶の葉が持つ酸化酵素」についてお話しました。
本日はいよいよ「蒸し」について簡単に話をすすめます。
実際の製造では、蒸気の温度だけでなく蒸気の流量、
圧力や生葉流量、質、製造環境の気温や湿度、
さらに風力、風向きなど様々な要素が複合するので
下記のような単純な理屈通りには
ならない事を承知の上でお読みください。
まずは、「蒸気」について考えてみます。
蒸し製緑茶では、
生葉を摘採した直後に「蒸気」を使って、
この酸化酵素を100%失活させます。
このことにより「緑茶」は紅茶や烏龍茶ではなく「緑茶」になります。
いわば
『生葉が持つ酸化酵素を100%失活させることが、
緑茶製法の「絶対条件」』と言うことが出来ます。
勿論、摘採直後から酸化酵素はその
活動をはじめますので、ここで言う「100%」とは、
「製造の蒸し工程に入る時に残っている酸化酵素全部」の意味となります。
実はここも緑茶品質や、その香味を決定づける
重要なファクターなのでしっかり説明したいのですが、
ここで広げてしまうと「蒸し製緑茶製法」の話に
戻れなくなってしまいますので、これはまた後日ということにします。
蒸気を使って「蒸す」ことで
酸化酵素を失活させているお茶を指して、
「蒸し製緑茶」と呼んでいるわけですから、
この状態の緑茶は酸化酵素が100%失活していることになります。
このことを良く覚えておいてください。
では蒸し製緑茶製法で行っている
「蒸す」とはどんな作業なのでしょうか?
簡単に言うと、「蒸気が持つ熱量を利用して、
生葉が持つ酸化酵素を失活させる作業」であると言えます。
この場合の蒸気が持つ熱量とは
蒸気1gあたり約540カロリーある潜熱を指しています。
つまり、蒸し製緑茶の「蒸し」は、
形も質量もある原料(生葉)の中に散在している酸化酵素を
「100%」失活させるために、この潜熱を利用して行われる作業です。
潜熱が利用される理由は、
「100℃の蒸気1gが100℃の水(熱湯)1gになる瞬間にだけ、
540カロリーの熱量を、原料である生葉に
渡すことが出来る能力をもつから」です。
100℃の水(熱湯)が99℃の水(熱湯)になるときは僅か1カロリー、
101℃の蒸気が100℃の蒸気に変わるときは約0.5カロリーの
能力しかないことを考えると、
100℃蒸気→100℃水(熱湯)のパフォーマンスは特筆すべきなのです。
このスーパーパフォーマンス潜熱を持った
100℃の蒸気が生葉に出会った瞬間に、「水」(100℃の湯)に戻り
1gあたり約540カロリーの熱量を生葉に渡すことで
蒸し製緑茶製法で理想とする、「均一な蒸し」がなされるのです。
この「蒸し」に関する理論が蒸し製緑茶製造の核心なので、くどくなりました。
ここまでの話でお分りかとは思いますが、
「蒸し」た状態の蒸された生葉は、「100%」酵素失活しているわけです。
それ以下では緑茶にはならないので
茶業者が無責任に使う「浅蒸し茶」は
蒸し製緑茶には有り得ない事にお気づきだと思います。
また、「100%」酵素失活させた生葉をさらに蒸して「深蒸し茶」
と言っていますがこれも製法を表す言葉ではなく、
ステーキの焼き方で言うところの「ウエルダン」に
近いものと思っていただけたら、理解しやすいと思います。
以上「蒸し」についてでした。
次は、生葉について考えてみたいと思います。
お盆も真っ只中、週末は家族や親戚が
集まるという方も多いことと思います。
おもてなしに、心をこめた一杯で、団欒の時間をお過ごしください。