こんにちは。
新しいブログのカテゴリー「お茶を観察してみました」を作りました。
皆さんといっしょに、お茶を様々な見方で観察してみるつもりでいます。
 
 さて、今日のお茶観察は、お湯で戻したときのお茶の葉の色の違いについて、
   ①同じ工場の一番茶と二番茶
   ②同じ二番茶の火入れ前と火入れ後
其々を比較しながら茶葉の色の違いについて、観察してみましょう。
 
①同じ工場の一番茶と二番茶の茶葉の色の違い
次の写真の右が一番茶、左が同じ工場の二番茶です。
ミルい物や深蒸し茶だと一番茶二番茶の比較がしにくいので、
今回ややコワ葉になった普通蒸し煎茶を用意しました。
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どちらも同じ工場の製品なので製造技術的には同じ精度で揉まれています。
にもかかわらず右の一番茶に比べ、二番茶がやや黄色いのが見て取れますが
、この違いは大雑把にお話すると次の2点によるものです。
1、一番茶に比べ二番茶はもともと繊維質が多い(葉がかたい)
2、二番茶製造時期は気温及び湿度が高いため、製造時の機械設定に制約がある
この様に一口にお茶と言っても茶期の違いで、製品に差が出ます。
 
②同じ二番茶の火入れ前と火入れ後の茶葉の違い
写真左が火入れ前荒茶を仕上ただけの茶葉、右がそれを火入れしたものです。
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火入れ前の茶葉にくらべ、火入れ後の茶葉が
黄色く褐色になっているのが良く判ります。
「火入れ」とは、荒茶に残っている5~6%程度の水分を
2%以下にして製品が含有水分により劣化するのを
防ぐための乾燥をしながら、香味を整えるための焙煎をすることをいいます。
ここで茶葉の色の変化を気にしすぎて「火入れ温度」を加減してしまうと、
美味しいお茶にならないばかりか、
出荷後の販売店の店頭やお客様のお手元に届いてからの劣化が
急速に進んでしまうお茶になってしまいます。
 
以上、茶葉の色を観察してみました。今日わかったことは①一番茶は二番茶よりも色が明るいみどりできれい ②火入れをすると茶葉の色は黄色くなるが、香味が良くなり劣化しにくくなる。この2点でした。
 
葉桐では茶葉の色や水色よりも、お茶の「香味」優先で火入れをしています。
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それでは、またお会いしましょう。
 
 
 
 
 
 
 
 

さて、前回までvol.1で「酸化酵素」、vol.2で「蒸し」と「蒸気」、vol.3では「生葉」にスポットを当て、

蒸し製緑茶の製法について話を進めて参りました。

 

蒸し製緑茶の製法についてのお話、今回は第4回目です。今回vol.4では「製造技術の差とはどんなものか」で、

蒸し製緑茶製法を考えてみます。

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前回お話しした「生葉」が製造にかかる過程の変化をみていきましょう。

前回上げた“原料として優秀な生葉の条件”を、思い出してみましょう。大雑把に次の4点でした。

1、畑で芽の生育が揃っている事

2、目指す製品(荒茶)に適した摘採がなされている事

3、摘採後の生葉の鮮度管理が、茶園及び工場で万全である事

4、摘採後、製造にかけるまでの時間が長くならない事

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このうちの「2、3、4」は既に製造工程であることをご理解いただけましたでしょうか?

この後お茶の本格的な製造が始まり、原料である生葉は次の各工程を進んでいきます。

 

5、蒸気で蒸して→「蒸した葉」

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6、粗く揉みながら乾かし→「粗く揉まれた葉」

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7、水分量を均一にするため揉み込み→「揉み込んだ葉」

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8、さらに揉みながら乾かし→「中程度に揉まれた葉」

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9、さらに水を引き出すために精緻に揉み→「精緻に揉まれた葉」

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10、最後の水を乾燥させるため、乾燥機にかけ→「乾燥した葉」になります。

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ここまでで製造が完了しました。製造は生葉の持つものを、「荒茶」と言う製品にしていく作業です。

要するに、精度の高い技術でいかに減点を作らないか、がお茶製造技術の要点であります。

 

製品である「荒茶」は、生葉を超える品質にはなりません。

ここでも勘違いしている茶業者の言葉をよく耳にします。  例えば

「うちのお茶は製造の腕がいいから、香りがあって、味も濃く出ておいしい」などです。

お茶は農産物の加工品ではあるけれど、その味わいの素は畑で作るものではないのでしょうか?

原料である生葉にその味や香りの素となる物があって初めて技術が活きてくるはずです。

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さらに

「最新の機械で揉んでいるから、おいしいよ」とか、「仕上げ映えのするお茶です。火をしっかり入れてくれたら

おいしくなると思います」などもあり、あなたの技術屋としての誇りはどこにいってしまったのかと、寂しくなることしばしです。

 

この荒茶の品質について、前回「良く覚えて」おいていただいた点数で振り返ってみます。

新芽が育ったまでの状態で、

                                        丹精組98点、そうでない組62点になっていましたね。

 

このそれぞれの生葉(原料)を使って上記工程の製茶を、減点なくやり終えると出来上がる荒茶の評価点は

                                       丹精組98点、そうでない組62点となり、

ここでノーサイドを迎えます。

 

98点の荒茶が5,000円で取引されたとすると、

62点のお茶は2,500円になるわけです。

 

 

次に、技術に差があり、

上記の2~10の各工程で減点が出た場合を考えてみます。

技術とは何かが判りやすくなるように、「丹精組」で減点が多発する状況で考えてみます。

 

摘採前の持ち点:丹精組 98点/そうでない組 62点

 

2.摘採  :丹精組 減点10点/そうでない組 減点0点

3.生葉管理 :丹精組 減点10点/そうでない組 減点0点

4.製造までの時間…

丹精組は朝から摘採で夕方から製造、そうでない組2時間以内

       :丹精組 減点15点/そうでない組 減点2点

 

中間集計 丹精組 63点/そうでない組 60点

 

36点あったはずの点差が、一気に3点差になってしまいました。

技術って侮れないですね。技術って大切ですね。

 

さらに進めます。

 

5.蒸し…製造までに時間が長かった

丹精組の生葉は、上手く「蒸す」事ができなかった。

:丹精組 減点5点/そうでない組 減点0点

 

6.粗揉…5が原因となり丹精組は早出しになってしまった。   

      :丹精組 減点10点/そうでない組 減点0点

8.中揉でも同じく

:丹精組 減点10点/そうでない組 減点0点

9.精揉…撚り込みが効かず

       :丹精組 減点 5点/そうでない組 減点5点

 

合計 丹精組荒茶 33点/そうでない組荒茶 55点

 

33点の荒茶は、たぶん1,200~1,300円で、

55点の荒茶はそれでも2,200円ほどで取引されるでしょう。

その時の丹精組生産家は必ず「生葉は良いだけんな」とぼやくのです。

そして「相場が悪い」「こんなに安くちゃ、やってられない」と。

でも、その安いお茶を作ったのは誰? なのでしょうね。

 

 

さて、「蒸し製緑茶製法」についてお話をしてきました。

簡単にまとめてみると、良い蒸し製緑茶を作るコツは、

 

良い生葉

良い摘採

良い管理

良い製造 

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であることで、何も特別な技術や機械が必要なわけではなく、

当たり前のことを、どれだけ当たり前にやりこなせるのか、なのだと思います。

 

そして、それを確信持って遂行していく、裏付けとしての知識と経験が重要といえるのだと思います。

 

蒸し製緑茶についてのお話でした。

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私たち産地のお茶屋や生産家が目指すのは、

畑で100点、製造で100点の品質のお茶作り。

皆様の元へ本当においしいお茶をお届けできるよう、

努めていきたいと思っています。

 

また、お会いしましょう。

さて、前回までvol.1で「酸化酵素」、vol.2で「蒸し」と「蒸気」、で蒸し製緑茶の製法について話を進めて参りました。

 

今回vol.3では、製造時のもう一方の主役原料である「生葉」について考えてみましょう。話の進行上様々な話に飛びますが、あくまでも生葉を中心に考えていきます。

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生葉とは文字通りお茶の生葉で、お茶を製造する際の原料となるものです。

葉桐本社のある安倍川筋の通称“本山地区”では、前年の二番茶後から整枝や施肥などの管理が始まり、夏から秋にかけて翌年の新茶を芽吹く「親葉」の葉層を育てていきます。まさに酷暑の中の作業で大変な作業です。

 

しかしながら、この夏から秋への管理作業の差が

翌年の一番茶に大きく影響をします。

いわばこのお盆までに何をしたかの差が、

来年の一番茶に出る、ということです。

 

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優秀な生産家さんたちは暑さもなんのその、

せっせと管理作業を進めています。

どんな施肥や管理作業が良いのかについては、

長くなりますので日を改めます。

 

 

さて、こうして丹精した茶園では優秀な新芽が育ちます。

またそうでない茶園でもそれなりの新芽が育ちます。

 

これがきゅうりや大根なら、

ここで「勝負あった」ノーサイドになります。

丹精組は98点、そうでない組は62点としましょう。

36点差で丹精組の「勝ち!」です。

 

この点差を活用して後程、お茶品質についての話をします。

良く覚えておいてください。

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また、この点数は其々の生葉が

「持っているもの」と考える事ができます。

そしてこの点数は摘採直後の物で、茶の樹から摘採され、

地面から離れてしまった後は決して増えることのない、

減点への一方通行になることをご承知おきください。

 

 

しかしながらお茶では、この段階では

お茶を作るための原料「生葉」でしかありません。

ここから「蒸し製緑茶」への製造が開始され、

その先で市場やお客様に評価されるので、

試合は始まったばかり、

サッカーで例えたならば「前半10分過ぎ」くらいでしょうか?

 

では、原料としてどんな生葉が優秀なのかを考えてみます。

これはただ単に農産物として考えるのでは片手落ち、

あくまでも原料としての視点が重要になります。

 

いくつか項目がありますので箇条書きにしてみます。

写真:茶園伸びた新芽

1、畑で芽の生育が揃っている事

2、目指す製品(荒茶)に適した摘採がなされている事

3、摘採後の生葉の鮮度管理が、茶園及び工場で万全である事

4、摘採後、製造にかけるまでの時間が長くならない事

 

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と主なものを上げてみました。

 

これをご覧になってお分りだと思います。

年間の栽培管理して原料となる生葉を摘採する「2」のところから、

「製造」が始まっています。

当然3も4も製造の初期工程で有ります。

すでに生葉は「農産物」ではなく、「製茶原料」であるわけです。

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今までは意識の高い工場でも、

製造は工場で生葉を受け取ったところからだと考えていました。

最近になって大きな共同工場などでは、

摘採時期や摘採の仕方について

工場側から要望を出すようになってきました。

とても良い傾向だと思います。

 

さて、2、3,4が製造工程であることは

ご理解いただけましたでしょうか?

 

この後、お茶の本格的な製造が始まります。

先程の二つのお茶の点差が、どうなっていくのか。

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今回は、ここまで。次号「Vol.4製造技術の差」に続くです。

こんにちは。

静岡 山奥のお茶屋 葉桐 です。

前回静岡茶の製造方法vol.1では、お茶の葉が持つ「酸化酵素」についてお話しました。

本日のvol.2では、いよいよ蒸し製緑茶について考えるために、「蒸気」のことを追及しながら、話をすすめます。

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実際の製造現場では、蒸気の温度だけでなく蒸気の流量、その圧力や原料である生葉流量、生葉の質、製造環境の気温や湿度、さらに風力、風向きなど様々な要素が複合して影響し合うので下記のような単純な理屈通りにはならない事を承知の上でお読みください。

 

まずは、「蒸気」について考えてみます。蒸し製緑茶では、生葉を摘採した直後に「蒸気」を使って、生葉が持っている酸化酵素を100%失活させます。このことにより「緑茶」は紅茶や烏龍茶ではなく「緑茶」になります。いわば『生葉が持つ酸化酵素を100%失活させることが、緑茶製法の「絶対条件」』と言うことが出来ます。

勿論、摘採直後から酸化酵素はその活動をはじめますので、ここで言う「100%」とは、「製造の蒸し工程に入る時に残っている酸化酵素全部」の意味となります。

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実はここ「残っている酸化酵素」も製造した緑茶品質や、その香味を決定づける重要なファクターなのでしっかり説明したいのですが、ここで広げてしまうと「蒸し製緑茶製法」の話に戻れなくなってしまいますので、これはまた後日ということにします。

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蒸気を使って「蒸す」ことで酸化酵素を失活させているお茶を指して、「蒸し製緑茶」と呼んでいるわけですから、この状態の緑茶は酸化酵素が100%失活していることになります。このことを良く覚えておいてください。

 

では蒸し製緑茶製法で行っている「蒸す」とはどんな作業なのでしょうか?

 

簡単に言うと、「蒸気が持つ熱量を利用して、生葉が持つ酸化酵素を失活させる作業」であると言えます。

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この場合の蒸気が持つ熱量とは蒸気1gあたり約540カロリーある潜熱を指しています。

つまり、蒸し製緑茶の「蒸し」は、形も質量もある原料(生葉)の中に散在している酸化酵素を「100%」失活させるために、この潜熱を利用して行われる作業です。

潜熱が利用される理由は、「100℃の蒸気1gが100℃の水(熱湯)1gになる瞬間にだけ、540カロリーの熱量を、原料である生葉に渡すことが出来る能力をもつから」です。

100℃の水(熱湯)が99℃の水(熱湯)になるときは僅か1カロリー、101℃の蒸気が100℃の蒸気に変わるときは約0.5カロリーの能力しかないことを考えると、100℃蒸気→100℃水(熱湯)のパフォーマンスは特筆すべきなのです。

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このスーパーパフォーマンス潜熱を持った100℃の蒸気が生葉に出会った瞬間に、「水」(100℃の湯)に戻り1gあたり約540カロリーの熱量を生葉に渡すことで蒸し製緑茶製法で理想とする、「均一な蒸し」がなされるのです。

 

この「蒸し」に関する理論が蒸し製緑茶製造の核心なので、くどくなりました。

 

 

ここまでの話でお分りかとは思いますが、「蒸し」た状態の蒸された生葉は、「100%」酵素失活しているわけです。

それ以下では緑茶にはならないので茶業者が無責任に使う「浅蒸し茶」(葉桐でも使ってしまいます)は蒸し製緑茶には有り得ない事にお気づきだと思います。

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また、「100%」酵素失活させた生葉をさらに蒸して「深蒸し茶」と言っていますがこれも製法を表す言葉ではなく、ステーキの焼き方で言うところの「ウエルダン」に近いものと思っていただけたら、理解しやすいと思います。

 

 

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以上「蒸し」と「蒸気」についてでした。次回は、生葉について考えてみたいと思います。

では、またお目にかかりましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

お茶の楽しみ方  「お茶の葉を廻して 見る」

こんにちは。

今日は、お茶の葉を「廻して」見てみます。

よれるだけよってみました。

お茶の葉の精緻な作りをじっくりと観察していただけます。

http://youtu.be/y5c8fMSrYl4

しっかり撚り込まれ、表面が鈍く光っている様は、なんだかお茶の葉ではないみたいですね。

経験を積まれた、生産家の技術が成せる技です。

1分弱の動画です。では、ご覧ください。

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静岡のお茶屋 葉桐でした。

今回は、日本茶「蒸し製緑茶製法」についてお話をしていきます。
かなり長い話なので次のように4部作に分けて解り易く、簡単に書いてみたいと思います。

Vol.1 酸化酵素について ---今回

Vol.2 「蒸し」と「蒸気」について

Vol.3 原料である生葉について

Vol.4 製法、製造技術について

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さて、第1部では、緑茶の製造に大きく関わる酵素について理解を深めます。この酵素がわかると、緑茶だけでなく、発酵茶の紅茶や烏龍茶などの半発酵茶についても、理解が深まります。

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まずは、お話を進める上での前提条件を設定します。

私こと静岡のお茶屋 葉桐は、抹茶を扱うことが少ない静岡のお茶屋なので、ここでは一般的な煎茶(深蒸し煎茶を含む)や玉露等の蒸した後、揉みながら乾かして作るお茶に関してのお話をしていきます。

また、蒸し製緑茶の話をご理解していただくために、お茶の葉が持つ「酸化酵素」についてお話をします。この「酸化酵素」についての理解が抜けてしまうと、蒸し製緑茶製法の話が見えにくくなりますので、しばしお付き合いください。

それでは始めます。緑茶の原料であるお茶の生葉(新芽を摘採したもの)には、「酸化酵素」が存在しています。この酸化酵素は文字通り、お茶の葉を「酸化」させる働きをします。この酵素が働くとお茶は発酵(本当は酸化しているのですが、なぜか茶業界では昔から発酵と言われている)し始めます。

ところで、日本の緑茶は、生葉をすぐに加熱して酸化酵素の働きを止める、「不発酵茶」です。

この発酵を最後までさせるとお茶は「紅茶」になり、途中で止めると止めたときの発酵の進み具合などにより、「包種茶」「烏龍茶」「鉄観音茶」等の半発酵茶になります。これらの半発酵茶の場合、途中で酸化酵素の働き(発酵)を止める手段として、多くの場合「釜炒り」の熱によって残った酸化酵素の働きを失活させています。

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≪写真はGABA茶(ギャバロン茶)、嫌気処理後に「釜炒り」で酸化酵素を失活させています≫

 

一方、これから話を進めて行く「蒸し製緑茶」では、酸化酵素が仕事をする前に、生葉を「蒸気で蒸す」事でその酸化酵素の働きを止めます。

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蒸し製緑茶の製法では、原料となる「生葉」と、その生葉の酸化酵素を失活させる「蒸気」が主役となります。

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…今回vol.1はここまで。次回は、「蒸気」について考えたいと思います。

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静岡のお茶屋 葉桐でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

静岡のお茶屋 葉桐 お茶の見方「五感は全て香味鑑定のために」vol.2

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こんにちは。前回までに「拝見に使う道具」や「拝見の仕方」、「五感は全て香味鑑定のために(良い印象)」と書き進めてきました。

今日はその 「五感は全て香味鑑定のために」vol.2 として、拝見時見本茶に対して「あまり良くない印象」を持ったときの一例を、前回と同じような文章で書いてみます。

繰り返しではないかと感じたらご容赦ください。「拝見」とは、まさにこの繰り返しなのです。

 

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では、

前回も申し上げましたが、五感とは視覚、触覚、嗅覚、味覚、聴覚の五つを指しています。このうち嗅覚、味覚が「香味の鑑定」に使われるのは、そのとおり皆さんにもご納得だと思います。

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では残りの三感はどうなのか?  最も情報量の多い視覚からお話しを進めてみます。

 

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視覚は文字通り目で見た情報、色とか形とか大きさとかを感じる感覚器官です。お茶の拝見でも、離れたところから遠目に見た「色」や「艶」、手元では「形状」を含めながらさらに「色」「艶」を見てみます。

ここまでは多少感じ方が違ったとしても、誰が見てもほぼ同じように見えているはずです。でもお茶屋は、ここまでで拝見の約85%を終了しています。目で見て集めた情報を瞬時に分析し、そのお茶の製造過程を知るのです。製造時に何をしたのか、しなかったのか?はたまた何がおきたのか。製法由来の「香味」の特性をこの時点で連想しているのです。

 

例えば色たくにやや冴えが無く、製茶の形状に「曲り」が認められる場合は、製造工程のどこかで「上乾き」が起きた(正確には上乾きをさせてしまった)お茶であると判断。結果「茶葉に水を残した」お茶であり、香味に「ムレ」があり、水色もやや濁りがちでやや赤味がさす色だろうと予測、この時点で仕入れ対象から外れるので、緊張感が一瞬解けます。

ここで注意したいのは「残した水」とは、水分計で測ることのできる「水分」とは別物、専門用語で言うところの「芯水」のことなので、いわゆる「湿気た状態」とは違います。

 

 

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二つ目は触覚です。触覚は手などで触れたものの風合い、堅いとか柔らかいとか、すべすべしている、ざらざらしている、重い、軽い、思ったより重いとか、細かいとか大きいとか、を感じる感覚器官です。お茶の拝見でも「手触り」でお茶を鑑定しています。触覚からの情報は、先ほど申し上げた「視覚」からの情報と併せて複合的に分析しています。

ここまでは多少感じ方が違ったとしても、誰が触ってもほぼ同じです。でもお茶屋は見本茶との僅かな時間の手触りから、そのお茶が製造過程で何をされてきたのかを察知し、その製法由来の「香味」の特性に結びつけています。

ちなみに私の場合左手の方が敏感な様で、右手では気づかない情報も、左手では感じ取ることができます。例えば、見た目の色や形状には問題がないお茶でも、触れた時に良く乾燥していて、がっちりとした手触りで、上から掴むと手のひらよりも大きく握れてしまうような感触のお茶は、製造工程のどこかで「上渇き」が起きた(正確には上乾きをさせてしまった)お茶であると判断。その結果、「茶葉に水を残した」お茶であり、香味に「ムレ」があるだろうと予測します。やはりこの時点で仕入れ対象から外します。

ここで注意したいのは先ほどと同じく「残した水」とは、水分計で測ることのできる「水分」ではなく「芯水」のことです。

 

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残るは、聴覚です。

これは触覚との合わせ技での活用です。見本茶を握ったり戻したりする際のお茶とお茶が擦れるかすかな音から、生産家さんのお茶作りに対する「考え方」やその「技量」を推量します。

そして、その製造法由来の「香味」の特性と結び付け、品質鑑定しています。例えば「がさがさ」と聞こえれば、「蒸し製緑茶」の製造方法を忠実に再現出来なかったお茶で、製造中「上渇き」をさせてしまったお茶であると判断。「揉んで乾かし、揉んで乾かし」がどこかで「揉んで乾かし乾かし、揉んで乾かし乾かし」になってしまい、結果茶葉に水を残し、香味に「ムレ」があるだろうと予測します。この微妙な差を一瞬にして見抜いています。

 

お茶屋の拝見、仕入れではこれらのことを瞬間に官能、品質や仕入れ対象としての如何を判断した上で、その確認作業として湯を注し嗅覚味覚を拝見するのです。拝見に使う道具から4回にわたって書いてきましたが、拝見とは視覚、触覚、聴覚をもってほぼ完了、味覚、嗅覚は追従のための実証実験をやっている、と言うことができます。

 

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以上、五感についてvol.2でした。

こんにちは。

これまで、私のブログでは「拝見に使う道具」および「拝見の仕方」で、お茶屋が品質鑑定をする際に行っている「拝見」について簡単に書いてきました。

今日は、その「拝見」をしているときに自分の感覚、五感をどのように使っているかについて、まとめてみました。禅問答のような内容になってしまいますが、静岡のお茶屋の神髄、仕入れに携わるお茶師の技の一端を披露させていただきます。

題目は、お茶の見方「五感は全て香味鑑定のために」です。それでは、しばしお付き合いください。

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ヒトの五感とは視覚、触覚、嗅覚、味覚、聴覚、この五つを指しています。

このうち嗅覚、味覚が「茶の香味鑑定」に使われるのは、鼻で香りを嗅ぎ口で味わうのだから、当然のこととしてご理解いただけることと思います。

では、視覚、触覚、聴覚についてはどうでしょうか?

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視覚から考えてみましょう。文字通り目で見た情報、色や形、大きさを感じる視覚、お茶の拝見でも「色」や「形状」を目で見て鑑定しています。ひとにより多少感じ方が違ったとしても、誰が見ても「お茶」ほぼ同じように見えています。

でも、ここでお茶屋の目は、見たお茶の色や形状から、そのお茶の製造過程を一瞬にして見抜いています。製造時に何をしたのか、逆にしなかったのか?はたまた何がおきたのかをその色艶、形状から読み取っています。製法由来の「香味」の特性を、見た目の形状や色、艶から連想しているのです。

たとえば艶(色たく)が非常に冴えているお茶は、その製造工程の全般にわたって「しとり」をもって揉まれたお茶であるため、「原料茶葉の良さを存分に引き出せたお茶」であり、香味良好だろうと判断します。

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では、触覚について考えてみます。手で触れたものの風合い、たとえばかたいとか柔らかいとか、すべすべしているざらざらしている、重い軽い、思ったより重いとか、細かいとか大きいとか、を感じるのが触覚です。

お茶の拝見する場合も、手触り(触覚)でお茶を鑑定しています。ひとにより多少感じ方が違ったとしても、誰が触ってもほぼ同じ、堅い物はかたく、小さなものは小さいと感じているはずです。

ここでもお茶屋の手、指先は、触ったお茶の手触りから、そのお茶が製造過程で何をされてきたのかを一瞬にして連想しています。そして、その製法由来の「香味」の特性を見抜いています。

例えば乾燥しているのに湿っているような手触りで、指の間をすべり落ちる感触のお茶は、

製造工程の全てで「しとり」をもって揉まれたお茶であると判断。結果、余分な熱や、風を食うことなく揉まれたお茶であり、香味良好だろうと連想します。

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最後、五番目は聴覚です。

聴覚については触覚や触覚との合わせ技で活用します。お茶を握ったり戻したりする際のお茶とお茶が擦れるかすかな音から、生産家のお茶作りに対する「考え方」やその「技量」を推量、その製法由来の「香味」の特性を見抜いています。同時に、同じ静岡県内でも、各産地間にある製法に対する考え方の、僅かな違いなどを勘案しながらの作業です。もちろん「一瞬」の作業です。たとえば「さらさら」と聞こえれば、「蒸し製緑茶」の製造方法を忠実に再現できる技量の持ち主が揉んだお茶で、製造中「しとり」をもって揉まれたお茶であると判断。結果「揉んで乾かし、揉んで乾かし」がしっかりされた、香味良好なお茶だろうと予測します。でも、多分本当は音など聞こえていないはずです。それでも聴覚を使っているのです。

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出合った見本についてこれらのことを瞬時に官能、各感覚器官からの各種情報を一瞬にして分析した上で、仕入れ対象になると判断した場合のみ湯を注します。嗅覚味覚で自分の視覚触覚聴覚での感触、判断、連想が正しかったことを確認し、仕入れていくのです。

 

 

以上、五感を使ったお茶の香味鑑定についてでした。

 

お察しのようにそれぞれの感覚に数十の感想があり、拝見による鑑定結果はそれらの組み合わせによるためとてもここに書ききれないものになります。

今回は視覚、触覚、聴覚で良い感触を得たケースを書いてみました。でも実際には、あまり良くない感触を覚えるケースも多く、「その場合はどうなんだ」との疑問が残ったことと思われます。次回は「良くない感触を覚えた」で書き直してみます。比べてお読みいただけると、雰囲気が伝わりやすいかもしれません。また生産家やお茶に携わる皆さんにとっては、大きなヒントになるかもしれませんね。

 

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本日は、お茶の見方「五感は全て香味鑑定のために」でした。

今日は、今までとちょっと視点を変えてお茶を楽しみたいと思います。

お茶を淹れているシーンを動画で撮影しました。グラスの中で茶葉が浮き沈みしながらふくらみ、開いて行く様子を早送りでご覧いただけます。

なかなかファニーな1分ほどの動画です、ご覧ください。

http://youtu.be/4q4-uVvcbXE
 

お茶屋の私も今まで気づきませんでしたが、お茶っ葉って健気でかわいいですね。

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さて、今日はお茶の見方「拝見の仕方」についてお話します!

お茶の品質を見るための「拝見」では、前回お話した「お茶を拝見する道具」を使って、お茶の香味などの内質、形状や色目などの外観(見た目の美しさ)を観察し、評価していきます。

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まずは「拝見盆」を使っての外観を見ていきます。

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外観を見る時のポイントとして、つやが有り透き通ったように見えるもの、形にゆがみが無くスッと伸びている物、葉がつぶれずにこまかくなっていない物が、優秀な技術で揉まれた美味しいお茶です。

こんな感じの茶葉です。この様に美味しいお茶は透明感があります。

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よく、緑色が濃く「あおい」と言われるお茶が、良いと言われます。しかしながら、実際には色よりも色沢が重要で、優秀な技術で揉まれた、優良な美味しいお茶はあくまでつやが有り、透けたように見える物です。

お茶だから透けては見えないのですが、「透けて見える」ように感じるお茶が良いお茶、美味しいお茶の指標になります。

次に、拝見盆の見本茶を手で触ったり、握ったりします。お茶の手触り感触などは品質鑑定の際には大きなポイントなので、茶葉を手に取り、茶の色、光沢、形状を見て行きます。ここでは、乾いているのに「しとり」を感じるもの、感触にガサつきがないものが優秀な技術で揉まれたお茶です。

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この際、拝見盆の底部に破砕した粉状のお茶が無いことが、重要な条件となります。

 

次に、審査(拝見)茶碗を使って内質、香味や水分の残り具合等を見て行きます。

荒茶の拝見の場合、4g(または3g)を「拝見茶碗」にとります。僅か4gなので、サンプリングの偏りがない様、見本茶全体を平均してとります。

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余談ですが、これは単純な作業ですが、私たちプロの指先は同じ見本茶から様々な「4g」を取り分けることが出来ます。

 

 

拝見茶碗のお茶に「熱湯」を注ぎます。「1 2 3 4…」とテンポよく数えながら、いつも一定のタイミングで湯を注ぎます。

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・沸騰した熱湯であること

・同じテンポで注ぐこと  この2点はこの内質の拝見には重要な条件です。

 

注いだら間髪入れず「すくい網」で茶葉そのものの香気を鑑定します。間髪いれないタイミングでしか発揚しない香気があるので、要注意です。

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ここではスッと鼻の奥に抜けて通るような香気を持つお茶が、優秀な技術で揉まれた美味しいお茶です。香りの種類を嗅ぎ分けるのではなく、香りの性質に注目しての鑑定が重要です。

同時に茶碗の中で開き始めた茶葉の様子を、観察します。出来るだけ葉がこまかくなっていないことが良い技術で揉んだ、美味しいお茶の品質を保証してくれます。

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またほぼ同時に「銀の匙」で拝見茶碗の茶をすくい、啜り飲みでお茶を口中全体に広げて味を鑑定します。

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ここでは香りと同じく、雑味が無く嚥下した後に「戻り香」が鼻に戻ってくるお茶が、優秀な技術で揉まれた美味しいお茶です。

甘味やうま味など、味のパーツに囚われ過ぎずに、戻り香まで含めたトータルの味わいを鑑定することが重要です。

最後に茶葉をよけて水色(すいしょく)を確認します。ここでも「水色」とは書いていますが、実際には色に囚われるのではなく、濁りが無く、透明であることが優秀な技術で揉まれた美味しいお茶です。とにかく透明感が大事です。

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見たいお茶を、拝見盆に空けてから最後までの一連の作業を、1分足らずでこなしていきます。一瞬にしてこのお茶の生い立ち、製造過程を見抜き、お客様に一年間変わらぬ品質でお届けするためにかかせない作業です。言い替えると、生産家が丹精して作ったお茶を活かすも殺すもお茶屋の「拝見」に掛かっている、ということになります。

 

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以上が静岡のお茶屋 葉桐の「お茶を見る 拝見の仕方」でした。