さて、前回までvol.1で「酸化酵素」、vol.2で「蒸し」と「蒸気」、vol.3では「生葉」にスポットを当て、
蒸し製緑茶の製法について話を進めて参りました。
蒸し製緑茶の製法についてのお話、今回は第4回目です。今回vol.4では「製造技術の差とはどんなものか」で、
蒸し製緑茶製法を考えてみます。
前回お話しした「生葉」が製造にかかる過程の変化をみていきましょう。
前回上げた“原料として優秀な生葉の条件”を、思い出してみましょう。大雑把に次の4点でした。
1、畑で芽の生育が揃っている事
2、目指す製品(荒茶)に適した摘採がなされている事
3、摘採後の生葉の鮮度管理が、茶園及び工場で万全である事
4、摘採後、製造にかけるまでの時間が長くならない事
このうちの「2、3、4」は既に製造工程であることをご理解いただけましたでしょうか?
この後お茶の本格的な製造が始まり、原料である生葉は次の各工程を進んでいきます。
5、蒸気で蒸して→「蒸した葉」
6、粗く揉みながら乾かし→「粗く揉まれた葉」
7、水分量を均一にするため揉み込み→「揉み込んだ葉」
8、さらに揉みながら乾かし→「中程度に揉まれた葉」
9、さらに水を引き出すために精緻に揉み→「精緻に揉まれた葉」
10、最後の水を乾燥させるため、乾燥機にかけ→「乾燥した葉」になります。
ここまでで製造が完了しました。製造は生葉の持つものを、「荒茶」と言う製品にしていく作業です。
要するに、精度の高い技術でいかに減点を作らないか、がお茶製造技術の要点であります。
製品である「荒茶」は、生葉を超える品質にはなりません。
ここでも勘違いしている茶業者の言葉をよく耳にします。 例えば
「うちのお茶は製造の腕がいいから、香りがあって、味も濃く出ておいしい」などです。
お茶は農産物の加工品ではあるけれど、その味わいの素は畑で作るものではないのでしょうか?
原料である生葉にその味や香りの素となる物があって初めて技術が活きてくるはずです。
さらに
「最新の機械で揉んでいるから、おいしいよ」とか、「仕上げ映えのするお茶です。火をしっかり入れてくれたら
おいしくなると思います」などもあり、あなたの技術屋としての誇りはどこにいってしまったのかと、寂しくなることしばしです。
この荒茶の品質について、前回「良く覚えて」おいていただいた点数で振り返ってみます。
新芽が育ったまでの状態で、
丹精組98点、そうでない組62点になっていましたね。
このそれぞれの生葉(原料)を使って上記工程の製茶を、減点なくやり終えると出来上がる荒茶の評価点は
丹精組98点、そうでない組62点となり、
ここでノーサイドを迎えます。
98点の荒茶が5,000円で取引されたとすると、
62点のお茶は2,500円になるわけです。
次に、技術に差があり、
上記の2~10の各工程で減点が出た場合を考えてみます。
技術とは何かが判りやすくなるように、「丹精組」で減点が多発する状況で考えてみます。
摘採前の持ち点:丹精組 98点/そうでない組 62点
2.摘採 :丹精組 減点10点/そうでない組 減点0点
3.生葉管理 :丹精組 減点10点/そうでない組 減点0点
4.製造までの時間…
丹精組は朝から摘採で夕方から製造、そうでない組2時間以内
:丹精組 減点15点/そうでない組 減点2点
中間集計 丹精組 63点/そうでない組 60点
36点あったはずの点差が、一気に3点差になってしまいました。
技術って侮れないですね。技術って大切ですね。
さらに進めます。
5.蒸し…製造までに時間が長かった
丹精組の生葉は、上手く「蒸す」事ができなかった。
:丹精組 減点5点/そうでない組 減点0点
6.粗揉…5が原因となり丹精組は早出しになってしまった。
:丹精組 減点10点/そうでない組 減点0点
8.中揉でも同じく
:丹精組 減点10点/そうでない組 減点0点
9.精揉…撚り込みが効かず
:丹精組 減点 5点/そうでない組 減点5点
合計 丹精組荒茶 33点/そうでない組荒茶 55点
33点の荒茶は、たぶん1,200~1,300円で、
55点の荒茶はそれでも2,200円ほどで取引されるでしょう。
その時の丹精組生産家は必ず「生葉は良いだけんな」とぼやくのです。
そして「相場が悪い」「こんなに安くちゃ、やってられない」と。
でも、その安いお茶を作ったのは誰? なのでしょうね。
さて、「蒸し製緑茶製法」についてお話をしてきました。
簡単にまとめてみると、良い蒸し製緑茶を作るコツは、
良い生葉
良い摘採
良い管理
良い製造
であることで、何も特別な技術や機械が必要なわけではなく、
当たり前のことを、どれだけ当たり前にやりこなせるのか、なのだと思います。
そして、それを確信持って遂行していく、裏付けとしての知識と経験が重要といえるのだと思います。
蒸し製緑茶についてのお話でした。
私たち産地のお茶屋や生産家が目指すのは、
畑で100点、製造で100点の品質のお茶作り。
皆様の元へ本当においしいお茶をお届けできるよう、
努めていきたいと思っています。
また、お会いしましょう。