「最高品質」と一致するもの

    標高650m大天竜 JAS有機栽培茶「奥領家」茶園 を訪ねて

 

こんにちは、「お茶屋 葉桐 お茶の葉ブログ 茶園探訪記」です。(20150307)

 

今回は浜松市天竜区水窪にある有機栽培茶園を訪ねてみました。葉桐のJAS有機栽培 天竜水窪茶の茶園は標高650m、谷の深い天竜峡谷をさかのぼった長野県境の大沢村にあります。幾重にも重なる天竜の山々が雄大な姿を見せてくれます。

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現在は3月7日先日の雪も融け、やっと冷え込みが緩み始め、道路凍結の心配がなくなったと判断し、JAS有機年次検査に向けた「内部監査」に訪問しました。

JAS有機茶園の様子です。標高が高くお茶の遅い産地ですが、年明け以降の定期的な降雨のため、芽は大きくなり始めていました。

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JAS有機製茶工場の様子です。この後3月の下旬には大掛かりな掃除を終えて、新茶シーズンを迎えます。

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以上、天竜水窪JAS有機茶園 浜松市天竜区水窪町奥領家から、お茶屋 葉桐 お茶の葉 ブログ 葉桐清巳からご報告でした。

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天竜水窪JAS有機栽培茶「奥領家」について、お茶屋葉桐のHPでさらに詳しくご覧いただけます。こちら→ https://hagiricha.com/japanesetea-tenryu/okuryouke/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、前回までvol.1で「酸化酵素」、vol.2で「蒸し」と「蒸気」、vol.3では「生葉」にスポットを当て、

蒸し製緑茶の製法について話を進めて参りました。

 

蒸し製緑茶の製法についてのお話、今回は第4回目です。今回vol.4では「製造技術の差とはどんなものか」で、

蒸し製緑茶製法を考えてみます。

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前回お話しした「生葉」が製造にかかる過程の変化をみていきましょう。

前回上げた“原料として優秀な生葉の条件”を、思い出してみましょう。大雑把に次の4点でした。

1、畑で芽の生育が揃っている事

2、目指す製品(荒茶)に適した摘採がなされている事

3、摘採後の生葉の鮮度管理が、茶園及び工場で万全である事

4、摘採後、製造にかけるまでの時間が長くならない事

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このうちの「2、3、4」は既に製造工程であることをご理解いただけましたでしょうか?

この後お茶の本格的な製造が始まり、原料である生葉は次の各工程を進んでいきます。

 

5、蒸気で蒸して→「蒸した葉」

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6、粗く揉みながら乾かし→「粗く揉まれた葉」

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7、水分量を均一にするため揉み込み→「揉み込んだ葉」

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8、さらに揉みながら乾かし→「中程度に揉まれた葉」

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9、さらに水を引き出すために精緻に揉み→「精緻に揉まれた葉」

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10、最後の水を乾燥させるため、乾燥機にかけ→「乾燥した葉」になります。

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ここまでで製造が完了しました。製造は生葉の持つものを、「荒茶」と言う製品にしていく作業です。

要するに、精度の高い技術でいかに減点を作らないか、がお茶製造技術の要点であります。

 

製品である「荒茶」は、生葉を超える品質にはなりません。

ここでも勘違いしている茶業者の言葉をよく耳にします。  例えば

「うちのお茶は製造の腕がいいから、香りがあって、味も濃く出ておいしい」などです。

お茶は農産物の加工品ではあるけれど、その味わいの素は畑で作るものではないのでしょうか?

原料である生葉にその味や香りの素となる物があって初めて技術が活きてくるはずです。

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さらに

「最新の機械で揉んでいるから、おいしいよ」とか、「仕上げ映えのするお茶です。火をしっかり入れてくれたら

おいしくなると思います」などもあり、あなたの技術屋としての誇りはどこにいってしまったのかと、寂しくなることしばしです。

 

この荒茶の品質について、前回「良く覚えて」おいていただいた点数で振り返ってみます。

新芽が育ったまでの状態で、

                                        丹精組98点、そうでない組62点になっていましたね。

 

このそれぞれの生葉(原料)を使って上記工程の製茶を、減点なくやり終えると出来上がる荒茶の評価点は

                                       丹精組98点、そうでない組62点となり、

ここでノーサイドを迎えます。

 

98点の荒茶が5,000円で取引されたとすると、

62点のお茶は2,500円になるわけです。

 

 

次に、技術に差があり、

上記の2~10の各工程で減点が出た場合を考えてみます。

技術とは何かが判りやすくなるように、「丹精組」で減点が多発する状況で考えてみます。

 

摘採前の持ち点:丹精組 98点/そうでない組 62点

 

2.摘採  :丹精組 減点10点/そうでない組 減点0点

3.生葉管理 :丹精組 減点10点/そうでない組 減点0点

4.製造までの時間…

丹精組は朝から摘採で夕方から製造、そうでない組2時間以内

       :丹精組 減点15点/そうでない組 減点2点

 

中間集計 丹精組 63点/そうでない組 60点

 

36点あったはずの点差が、一気に3点差になってしまいました。

技術って侮れないですね。技術って大切ですね。

 

さらに進めます。

 

5.蒸し…製造までに時間が長かった

丹精組の生葉は、上手く「蒸す」事ができなかった。

:丹精組 減点5点/そうでない組 減点0点

 

6.粗揉…5が原因となり丹精組は早出しになってしまった。   

      :丹精組 減点10点/そうでない組 減点0点

8.中揉でも同じく

:丹精組 減点10点/そうでない組 減点0点

9.精揉…撚り込みが効かず

       :丹精組 減点 5点/そうでない組 減点5点

 

合計 丹精組荒茶 33点/そうでない組荒茶 55点

 

33点の荒茶は、たぶん1,200~1,300円で、

55点の荒茶はそれでも2,200円ほどで取引されるでしょう。

その時の丹精組生産家は必ず「生葉は良いだけんな」とぼやくのです。

そして「相場が悪い」「こんなに安くちゃ、やってられない」と。

でも、その安いお茶を作ったのは誰? なのでしょうね。

 

 

さて、「蒸し製緑茶製法」についてお話をしてきました。

簡単にまとめてみると、良い蒸し製緑茶を作るコツは、

 

良い生葉

良い摘採

良い管理

良い製造 

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であることで、何も特別な技術や機械が必要なわけではなく、

当たり前のことを、どれだけ当たり前にやりこなせるのか、なのだと思います。

 

そして、それを確信持って遂行していく、裏付けとしての知識と経験が重要といえるのだと思います。

 

蒸し製緑茶についてのお話でした。

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私たち産地のお茶屋や生産家が目指すのは、

畑で100点、製造で100点の品質のお茶作り。

皆様の元へ本当においしいお茶をお届けできるよう、

努めていきたいと思っています。

 

また、お会いしましょう。

さて、前回までvol.1で「酸化酵素」、vol.2で「蒸し」と「蒸気」、で蒸し製緑茶の製法について話を進めて参りました。

 

今回vol.3では、製造時のもう一方の主役原料である「生葉」について考えてみましょう。話の進行上様々な話に飛びますが、あくまでも生葉を中心に考えていきます。

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生葉とは文字通りお茶の生葉で、お茶を製造する際の原料となるものです。

葉桐本社のある安倍川筋の通称“本山地区”では、前年の二番茶後から整枝や施肥などの管理が始まり、夏から秋にかけて翌年の新茶を芽吹く「親葉」の葉層を育てていきます。まさに酷暑の中の作業で大変な作業です。

 

しかしながら、この夏から秋への管理作業の差が

翌年の一番茶に大きく影響をします。

いわばこのお盆までに何をしたかの差が、

来年の一番茶に出る、ということです。

 

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優秀な生産家さんたちは暑さもなんのその、

せっせと管理作業を進めています。

どんな施肥や管理作業が良いのかについては、

長くなりますので日を改めます。

 

 

さて、こうして丹精した茶園では優秀な新芽が育ちます。

またそうでない茶園でもそれなりの新芽が育ちます。

 

これがきゅうりや大根なら、

ここで「勝負あった」ノーサイドになります。

丹精組は98点、そうでない組は62点としましょう。

36点差で丹精組の「勝ち!」です。

 

この点差を活用して後程、お茶品質についての話をします。

良く覚えておいてください。

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また、この点数は其々の生葉が

「持っているもの」と考える事ができます。

そしてこの点数は摘採直後の物で、茶の樹から摘採され、

地面から離れてしまった後は決して増えることのない、

減点への一方通行になることをご承知おきください。

 

 

しかしながらお茶では、この段階では

お茶を作るための原料「生葉」でしかありません。

ここから「蒸し製緑茶」への製造が開始され、

その先で市場やお客様に評価されるので、

試合は始まったばかり、

サッカーで例えたならば「前半10分過ぎ」くらいでしょうか?

 

では、原料としてどんな生葉が優秀なのかを考えてみます。

これはただ単に農産物として考えるのでは片手落ち、

あくまでも原料としての視点が重要になります。

 

いくつか項目がありますので箇条書きにしてみます。

写真:茶園伸びた新芽

1、畑で芽の生育が揃っている事

2、目指す製品(荒茶)に適した摘採がなされている事

3、摘採後の生葉の鮮度管理が、茶園及び工場で万全である事

4、摘採後、製造にかけるまでの時間が長くならない事

 

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と主なものを上げてみました。

 

これをご覧になってお分りだと思います。

年間の栽培管理して原料となる生葉を摘採する「2」のところから、

「製造」が始まっています。

当然3も4も製造の初期工程で有ります。

すでに生葉は「農産物」ではなく、「製茶原料」であるわけです。

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今までは意識の高い工場でも、

製造は工場で生葉を受け取ったところからだと考えていました。

最近になって大きな共同工場などでは、

摘採時期や摘採の仕方について

工場側から要望を出すようになってきました。

とても良い傾向だと思います。

 

さて、2、3,4が製造工程であることは

ご理解いただけましたでしょうか?

 

この後、お茶の本格的な製造が始まります。

先程の二つのお茶の点差が、どうなっていくのか。

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今回は、ここまで。次号「Vol.4製造技術の差」に続くです。

お茶の楽しみ方  「お茶の葉を廻して 見る」

こんにちは。

今日は、お茶の葉を「廻して」見てみます。

よれるだけよってみました。

お茶の葉の精緻な作りをじっくりと観察していただけます。

http://youtu.be/y5c8fMSrYl4

しっかり撚り込まれ、表面が鈍く光っている様は、なんだかお茶の葉ではないみたいですね。

経験を積まれた、生産家の技術が成せる技です。

1分弱の動画です。では、ご覧ください。

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静岡のお茶屋 葉桐でした。

今回は、日本茶「蒸し製緑茶製法」についてお話をしていきます。
かなり長い話なので次のように4部作に分けて解り易く、簡単に書いてみたいと思います。

Vol.1 酸化酵素について ---今回

Vol.2 「蒸し」と「蒸気」について

Vol.3 原料である生葉について

Vol.4 製法、製造技術について

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さて、第1部では、緑茶の製造に大きく関わる酵素について理解を深めます。この酵素がわかると、緑茶だけでなく、発酵茶の紅茶や烏龍茶などの半発酵茶についても、理解が深まります。

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まずは、お話を進める上での前提条件を設定します。

私こと静岡のお茶屋 葉桐は、抹茶を扱うことが少ない静岡のお茶屋なので、ここでは一般的な煎茶(深蒸し煎茶を含む)や玉露等の蒸した後、揉みながら乾かして作るお茶に関してのお話をしていきます。

また、蒸し製緑茶の話をご理解していただくために、お茶の葉が持つ「酸化酵素」についてお話をします。この「酸化酵素」についての理解が抜けてしまうと、蒸し製緑茶製法の話が見えにくくなりますので、しばしお付き合いください。

それでは始めます。緑茶の原料であるお茶の生葉(新芽を摘採したもの)には、「酸化酵素」が存在しています。この酸化酵素は文字通り、お茶の葉を「酸化」させる働きをします。この酵素が働くとお茶は発酵(本当は酸化しているのですが、なぜか茶業界では昔から発酵と言われている)し始めます。

ところで、日本の緑茶は、生葉をすぐに加熱して酸化酵素の働きを止める、「不発酵茶」です。

この発酵を最後までさせるとお茶は「紅茶」になり、途中で止めると止めたときの発酵の進み具合などにより、「包種茶」「烏龍茶」「鉄観音茶」等の半発酵茶になります。これらの半発酵茶の場合、途中で酸化酵素の働き(発酵)を止める手段として、多くの場合「釜炒り」の熱によって残った酸化酵素の働きを失活させています。

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≪写真はGABA茶(ギャバロン茶)、嫌気処理後に「釜炒り」で酸化酵素を失活させています≫

 

一方、これから話を進めて行く「蒸し製緑茶」では、酸化酵素が仕事をする前に、生葉を「蒸気で蒸す」事でその酸化酵素の働きを止めます。

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蒸し製緑茶の製法では、原料となる「生葉」と、その生葉の酸化酵素を失活させる「蒸気」が主役となります。

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…今回vol.1はここまで。次回は、「蒸気」について考えたいと思います。

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静岡のお茶屋 葉桐でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

静岡のお茶屋 葉桐 お茶の見方「五感は全て香味鑑定のために」vol.2

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こんにちは。前回までに「拝見に使う道具」や「拝見の仕方」、「五感は全て香味鑑定のために(良い印象)」と書き進めてきました。

今日はその 「五感は全て香味鑑定のために」vol.2 として、拝見時見本茶に対して「あまり良くない印象」を持ったときの一例を、前回と同じような文章で書いてみます。

繰り返しではないかと感じたらご容赦ください。「拝見」とは、まさにこの繰り返しなのです。

 

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では、

前回も申し上げましたが、五感とは視覚、触覚、嗅覚、味覚、聴覚の五つを指しています。このうち嗅覚、味覚が「香味の鑑定」に使われるのは、そのとおり皆さんにもご納得だと思います。

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では残りの三感はどうなのか?  最も情報量の多い視覚からお話しを進めてみます。

 

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視覚は文字通り目で見た情報、色とか形とか大きさとかを感じる感覚器官です。お茶の拝見でも、離れたところから遠目に見た「色」や「艶」、手元では「形状」を含めながらさらに「色」「艶」を見てみます。

ここまでは多少感じ方が違ったとしても、誰が見てもほぼ同じように見えているはずです。でもお茶屋は、ここまでで拝見の約85%を終了しています。目で見て集めた情報を瞬時に分析し、そのお茶の製造過程を知るのです。製造時に何をしたのか、しなかったのか?はたまた何がおきたのか。製法由来の「香味」の特性をこの時点で連想しているのです。

 

例えば色たくにやや冴えが無く、製茶の形状に「曲り」が認められる場合は、製造工程のどこかで「上乾き」が起きた(正確には上乾きをさせてしまった)お茶であると判断。結果「茶葉に水を残した」お茶であり、香味に「ムレ」があり、水色もやや濁りがちでやや赤味がさす色だろうと予測、この時点で仕入れ対象から外れるので、緊張感が一瞬解けます。

ここで注意したいのは「残した水」とは、水分計で測ることのできる「水分」とは別物、専門用語で言うところの「芯水」のことなので、いわゆる「湿気た状態」とは違います。

 

 

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二つ目は触覚です。触覚は手などで触れたものの風合い、堅いとか柔らかいとか、すべすべしている、ざらざらしている、重い、軽い、思ったより重いとか、細かいとか大きいとか、を感じる感覚器官です。お茶の拝見でも「手触り」でお茶を鑑定しています。触覚からの情報は、先ほど申し上げた「視覚」からの情報と併せて複合的に分析しています。

ここまでは多少感じ方が違ったとしても、誰が触ってもほぼ同じです。でもお茶屋は見本茶との僅かな時間の手触りから、そのお茶が製造過程で何をされてきたのかを察知し、その製法由来の「香味」の特性に結びつけています。

ちなみに私の場合左手の方が敏感な様で、右手では気づかない情報も、左手では感じ取ることができます。例えば、見た目の色や形状には問題がないお茶でも、触れた時に良く乾燥していて、がっちりとした手触りで、上から掴むと手のひらよりも大きく握れてしまうような感触のお茶は、製造工程のどこかで「上渇き」が起きた(正確には上乾きをさせてしまった)お茶であると判断。その結果、「茶葉に水を残した」お茶であり、香味に「ムレ」があるだろうと予測します。やはりこの時点で仕入れ対象から外します。

ここで注意したいのは先ほどと同じく「残した水」とは、水分計で測ることのできる「水分」ではなく「芯水」のことです。

 

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残るは、聴覚です。

これは触覚との合わせ技での活用です。見本茶を握ったり戻したりする際のお茶とお茶が擦れるかすかな音から、生産家さんのお茶作りに対する「考え方」やその「技量」を推量します。

そして、その製造法由来の「香味」の特性と結び付け、品質鑑定しています。例えば「がさがさ」と聞こえれば、「蒸し製緑茶」の製造方法を忠実に再現出来なかったお茶で、製造中「上渇き」をさせてしまったお茶であると判断。「揉んで乾かし、揉んで乾かし」がどこかで「揉んで乾かし乾かし、揉んで乾かし乾かし」になってしまい、結果茶葉に水を残し、香味に「ムレ」があるだろうと予測します。この微妙な差を一瞬にして見抜いています。

 

お茶屋の拝見、仕入れではこれらのことを瞬間に官能、品質や仕入れ対象としての如何を判断した上で、その確認作業として湯を注し嗅覚味覚を拝見するのです。拝見に使う道具から4回にわたって書いてきましたが、拝見とは視覚、触覚、聴覚をもってほぼ完了、味覚、嗅覚は追従のための実証実験をやっている、と言うことができます。

 

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以上、五感についてvol.2でした。

お茶の品質を支えるお茶師の拝見技術

今回はお茶屋が日常的に行っている「拝見」について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

拝見についての基礎的なお話を書いたブログへのリンクを、文末に貼ってあります。ご参照ください。

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「お茶の拝見」と言うと、いくつかを比較する「相対評価」が一般的です。例えば、仕入れの際にA,B,C3点を比べ、求めている商品特性にむく品質を有し価格的に適合するものを選んだり、各種「茶品評会」のように出品されたものに順位を付けたりする場合は、この相対評価でお茶を拝見するようです。

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並べて拝見し、品質的な優劣を順位付けするわけです。こんな風に。

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言い替えると、右と左を比べどちらが「良いお茶」なのかを見極めているわけです。ここで言うところの良いお茶とは、美味しい、見た目がきれい、水色が良い、儲かるなど様々な基準があることで、相対評価により商品にあった原料を仕入れすることが出来るようです。

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さて、本日はこのようにお茶を選ぶための拝見技術「相対評価」ではなく、お茶の品質を左右し、その製法はもちろん栽培や摘採の仕方まで決定するための拝見技術「絶対評価」についてご一緒に考えてみましょう。

 

まずは、この茶葉をご覧ください。2014年産 玉川横沢荒茶です。太く長く大きな出来上がりです。その上、茶葉の表面には艶があり「てかてか」に光っています。また、白い茎も見当たらずとても「青い」お茶に揉み上がっています。
これは、摘採した生葉と製造がぴたりと一致し、なおかつ栽培でこの芽を作り出した時にだけ出来るベストな状態、申し分なく非の打ちどころのない荒茶です。この場合は生産家をただただ褒めちぎるだけです。

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次の写真は2014年産 東頭(とうべっとう)荒茶です。長く大きな出来上がりでがやや細くなってしまっています。また、白い棒は見当たりませんが、艶が無く、青く染まるはずの茎が一部「飴色(赤みを帯びた褐色)」になっています。これは栽培、摘採でとれた良い芽をこなしきれず、ほんの僅か「むれたところ」を作ってしまったためにあらわれる現象です。

この場合は生産家にいくつかの質問をした上で、逆にいくつかのアドバイスをしていきます。この荒茶の場合に質問する項目

  • 摘採した新芽の熟度
  • 蒸し方
  • 機械への投入重量
  • 粗揉機の熱風温度、風量、回転数、出し度
  • 揉捻機の加錘と揉捻時間
  • 中揉機の排出設定温度と出し度

この質問に対する答え次第でアドバイス内容は複雑に違ってきます。

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3枚目は2014年産 玉川大沢です。太く長く大きな出来上がりです。その上、茶葉の表面には艶があり「てかてか」に光っています。また、白い茎も見当たらず「青い」お茶に揉み上がっています。しかしながらやや平たい葉が多くなっています。業界用語で「平打っている」と言い、精揉機での加錘のタイミング、掛け方が微妙にずれた時に出てくる症状です。

この場合は生産家にいくつかの質問をした上で、逆にいくつかのアドバイスをしていきます。この荒茶の場合に質問する項目

  • 生葉の熟度
  • 投入生葉量
  • 中揉機の排出設定温度と出し度
  • 中火台での待ち時間(中揉機から取り出し精揉機に入れるまでのタイムラグ)
  • 精揉機の使用は3手それとも4手?(4手中)
  • 精揉機の釜設定温度
  • 回転数
  • 加錘タイミング及び移動タイミング

この質問に対する答え次第でアドバイスする内容は違ってきます。

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以上の様に荒茶の外観を拝見することで、生産時に起きた多くの事象を知ることができます。その中で「人為」で起こっている事に対しては、「人為」での対策が可能であるため、ここで拝見したことが生産家の技術向上、荒茶品質向上に大きな影響を持ち、ひいては製品品質を支えるために欠かせない業であることがご理解いただけるものと思います。

新茶時期のお互いに忙しい時に、毎朝繰り返す生産家とお茶師の無駄にも見えるやりとりこそが、葉桐がリリースする静岡茶の最高品質を支えているのです。

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以上、お茶の拝見「絶対評価」についてでした。

拝見についての基礎的なお話は

「お茶を拝見する道具」:http:// https://hagiricha.com/tea/2014/11/post-6.html

「お茶の拝見の仕方」:https://hagiricha.com/blog/2014/08/140804haiken.html

「拝見における五感の使い方①」:https://hagiricha.com/blog/2014/08/140805haiken.html

「拝見における五感の使い方②」:https://hagiricha.com/blog/2014/08/140807haiken.html 

に詳しく書きました。ご参照ください。